Doctor Column院長コラム

世界のニキビ治療の現状と問題点

2019年02月25日NEW

世界人口を75億人として米国を参考にすると世界には12億人若のニキビ患者がいることになります。その中には重症ニキビで苦しんでいる人が多数いると思われますが、世界で行われているニキビ治療を副作用の面からとらえてみて、世界のニキビ治療の現状と問題点を探ってみたいと思います。

現在のニキビ治療は抗生物質やアダパレン(ディフェリン)、抗菌作用を持つ過酸化ベンゾイル(ベピオ)などの外用や抗生物質、イソトレチノインなどの内服療法が広く行われています。それ以外にケミカルピーリングや漢方、ティーツリーオイルなどの補助的治療も行われています。また最近ではレーザーや高周波を使った、皮脂腺やアクネ菌を直接ターゲットにしたphotodynamic therapyやselective photothermolysisも行われているようです。しかし、これらの治療にもかかわらず軽快せずにむしろ悪化し困っておられる方々がいるのも事実です。

ニキビ治療の中でまず問題となるのは抗生物剤が効かない耐性菌の出現です。抗生剤は赤ニキビに効果的で使いやすく、また皮膚科は他科よりも長期の使用になる傾向があり耐性菌が出現しやすい状況にあるといえます。マクロライド系の抗生物質は多くの国で50%以上の耐性菌がみとめられ、日本ではクリンダマイシン耐性のアクネ菌が44%あることが報告され、テトラサイクリン耐性の複数のアクネ菌も見つかっています。そのため単独の使用ではなく過酸化ベンゾイルなどとの併用が進められています。また、ニキビ治療を専門にする医師の皮膚に50%以上の割合でエリスロマイシンやクリンダマイシンへの耐性菌が常在する報告があります。国連は2017年に薬剤耐性抗生物質による緊急事態を減らすよう求めています。

次はイソトレチノイン内服による問題です。日本では未承認ですが、1982年にRoche社からAccutane(アキュテイン)として市場に提供され、既に30年以上世界の多くの国で使用され、米国ではニキビ治療薬の65%を占めるともいわれます。イソトレチノインはニキビにとても効果的ですがこの薬は催奇形性、炎症性腸疾患、うつや精神病、自殺志向、粘膜障害などの有害事象が指摘されています。

そもそも思春期の生理現象ともいえるニキビにこのような強烈な薬剤が使用されるのは、①重症ニキビ患者の精神的苦痛と生活の質の低下が看過できないこと、②”他に重症ニキビに対する非・催奇形性治療が開発されない限りイソトレチノインを放棄することは善ではなく害である“とする世界の医学界の認識があるようです。イソトレチノインの使用は各国の厳重な管理下にあり、その使用を擁護する論文がいくつもありますが、イソトレチノインに曝露された妊娠の40%が自然流産し35%に胚性異常があると推定する文献や不幸な結果の報告があるのも事実です。

それから、イソトレチノンに関係あるとされる有害事象に炎症性腸疾患があります。Accutane(アキュテイン)を服用した患者が腸管出血を起こして大腸を一部あるいは全部を摘出し人工肛門を設置した症例もあり、Roche社は多額の賠償金を支払っています。ところがFDAへの炎症性腸疾患の有害事象報告の大半が弁護士報告であり歪曲されているとされ、また、医学界はイソトレチノインの使用とクローン病との因果関係は一般的には認められないとしています。2005年に始まったRoche 社に対して起こされた2076件の訴訟についてニュージャージー州最高裁判所は 2018年8月1日、Accutaneの使用とクローン病との因果関係は認められないとしRoche社に有利な判断が示されました。これにより法的にはイソトレチノインと炎症性腸疾患の問題は一応終結するように思いますが、医学的には引き続き関心をもって見ていきたいと思います。Roche社は2009年Accutaneを市場から撤退させましたが、現在はRoaccutane(ロアキユテイン)として再投入しています。

日本では幸いにもイソトレチノインの内服は未承認ですが、ネットでは医師の個人輸入でかなりの方が処方されているように思われます。不幸な結果が起こらないことを願います。