Doctor Column院長コラム

Vol.12 当院のニキビ治療に関する論文

2019年03月11日

2017年4月に開いた15周年パーティでクリニックのニキビ治療を紹介したところ、多くの方から賞賛をいただき、また、論文にまとめることを勧めるアドバイスがありました。面倒くさいなと思いながらも、安全なニキビの根治療法を確立したという自負心と医師人生のまとめになる意味があるかなと思いなおして原著論文に仕上げてみました。

2018年の暮れ、吉永先生と共著でイギリスのJournal of Dermatological Treatmentに投稿しましたら、2019年の1月に修正なしにそのままの原稿採用の連絡があり、2月1日に限定オンライン掲載され、3月1日からオンライン公開されています。ですから、皆様もGoogleやPub medでacne, Tsukayamaなどのキーワードで検索しますと下のタイトルを見つけることができます。

Studying the efficacy of a new radical treatment for acne vulgaris using a surgical technique.(尋常性痤瘡を対象とした新しい外科的治療の有用性を検討する研究)

論文の本質をわかり易く解説してみたいと思います。

本論文はニキビに対する従来の病因論とは違った“ニキビとは毛包内の異物や小膿瘍である”とする仮説をたてています。

そして、この毛包内の内容物を除去するために新しい外科的治療を開発する必要性を論じます。この外科的治療(マイクロ排膿のことです)の操作は、まずピンセットの先端の一側を毛包内に挿入して0.5mm?1mmの小切開を毛包壁に加えます。皮膚の厚さを1.5mmとするとそこに少し斜めに位置する毛包の長径も1.5mmと仮定することができるので、0.5mmの場合は1/3、1mmの場合は2/3の毛包壁がcutされることになります。そしてピンセットを反転して毛穴周囲を圧すると毛包がぱっくりと開いて内容物が完全に押し出されるということになります。

これによってニキビは根治し、小切開による目立つ傷跡は残らず、ニキビによる炎症性色素沈着もいずれ消失し、また、毛包内の汚れが全て排出されるため、患者さんの肌は明るくて健康な肌質に仕上がります。これはニキビの外科的治療(マイクロ排膿)が理論づけられた術式として確立されたことを意味します。

  

次に2009年から2017年までの9年間に当院でニキビの外科的治療を受けた患者4566人についてこの外科的治療の有用性の研究を行いました。その結果、患者数と治療回数は年次ごとにきれいな逆相関関係を示し治療回数が増えるほど患者数が減っていて外科的治療でニキビが治っていることが示されました。1?10回、1?20回、1?50回の治療で治った患者が4566人のそれぞれ約85%、93%、99%を占めることもわかりました。ただし、この治癒した患者の中には痛みのために治療を中止した患者も含まれると思われるため、4566人中、1回で治療を止めた人1708人(1回で根治した人と痛みのために治療を中止した人が含まれます)を解析から除外して検討してみたところ、2?10回、2?20回、2?50回の治療で治った患者が2858人のそれぞれ約76%、90%、98%を示すこともわかりました。

このことは、どんな重症ニキビ患者でも1週間に一度この治療を続ければ、約1年で根治する可能性があることを示します。これによってこの外科的治療がニキビの治療として有用であり、基本的なニキビの治療法になりえることが示されました。

この外科的治療によって患者さんはニキビが根治して明るくて清潔な肌質に仕上がり、精神的苦痛から解放され、そして薬剤による副作用のリスクからも解放されることになります。

なお、この治療は既存の薬剤をほとんど使用することなく、炎症と炎症性色素沈着にビタミンCイオン導入を、過剰な皮脂分泌にはトレチノイン外用を併用しています。

 

ニキビが完治して何倍にもキレイになり、精神的苦痛から解放されて勉学や仕事に集中できるようになり、また、対人関係にも積極的になれてよい人生に変わった方を数多く診てきました。今回の研究で、マジックではない科学的理論に裏付けられた外科的治療と高い治癒率が示された臨床研究の結果が見事に一致していることを確認できたことは著者として大変満足しているところです。

最後に、今回の臨床研究にご協力いただきました皆様、当院のスタッフ、良きアドバイスをくれた娘夫婦(京都大学付属病院勤務医)、そして資料作成に協力してくれた妻にこの場を借りて感謝いたします。